三百年を巡る中川政七商店の本店ガイドツアーに行ってきました!

 「筬」「杼」「砧」これらの漢字はどう読むのでしょうか。順に「おさ」「ひ」「きぬた」と読みます。読みを聞くと、どこかで聞いたことがあると思う人もいらっしゃるかもしれませんね。

 これらの言葉は、高品質で洗練されたデザインで全国的に有名な雑貨ブランド「中川政七商店」のガイドツアーで聞きました。この商店は、古い町並みが今も残る奈良市のならまちにあります。江戸時代から存在するこの商店の歴史に触れ、タイムスリップ体験ができるツアーです。

 ツアーの最後には美味しい和菓子と自分で点てたお抹茶を楽しめます。このご褒美が楽しみで申し込んだのですが、思った以上に深い学びがありました。脳に刺激を受け、そこにしみ入っていくかのような美味しい和菓子とお抹茶。身体と頭を気持ちよくマッサージされるかのような時間でした。

 このガイドツアーの中味を少しご紹介しますね。

 まずは、店の中央の天井に注目! 長く太い竹の物干し竿が見えます。これはできあがった麻布を検品するため垂らす時に使われたものだそうで、竹の艶のよろしいこと。長年使われ続けてきたお道具はまるで芸術品のように光り輝いています。通路部分の天井にはお水取りに使われた松明も飾られています。もし行かれた時にはぜひそれらを見上げてみてください。

 店の前にある縦格子にも注目です。黒い塗りは後で施しましたが、木そのものは古いものがほとんど、とのことでした。江戸時代の享保元年に創業ということで、そこからこれまでの300余年。大事に残されている、そのことに感心しました。

 ちなみにこの縦格子はデザイン要素だけでなく、鹿と店構えの両方を傷つけないようにとの実用的な意味合いもあるそうです。江戸時代も今と同じく鹿が自由に往来していたと知り、目の前の景色が急に見たこともない過去の景色と重なるような感覚に襲われました。

 店の奥には試着室があり、ドアには電話番号が書かれています。貮貮貮貮番、つまり二二二二番です。なぜ二番かというと、奈良で二番目に電話が引かれたからとのこと。それだけ繁盛していた商店だった、もしくは進取の気質に富んでいたということなのでしょうか。

 店のカウンター横には1925年のパリ万博に出展した証拠である証書、実際に出展した大判のハンカチも飾られていました。「万博」といえば今でも国の威信をかけて、といったところがありますから、昔であればなおさらでしょう。この中川政七商店の実力と評判の高さが窺い知れます。

 「時蔵」と「布蔵」の2つの蔵も見せていただきました。

 「時蔵」で驚いたのは、たくさんの引き出しです。ひとつひとつの引き出しには番号が振られています。この番号は過去から、そして未来へと続く年号だそうで、過去の年号の引き出しには台帳などの資料がすでにしまわれています。そして、今後の未来のものも保管されていくというわけです。歴史あるこの商店をこれからも継続させていくという店主の気概、責任が感じられます。

 他にも、得意先の名前なども書かれた台帳、効率化を図るための版木、昔の出勤簿である曝番帳などが飾られています。『花ふきん』の発売当時の包装紙や更麻(さらさ)のキャミソールなど今も続く、麻の製造に関するものもあります。好奇心をおおいに刺激された「時蔵」でした。

 「布蔵」には機織り機が置かれていました。今回この蔵には入れませんでしたが、機織りが体験できるイベントがあるそうなので、その時は入れるのかもしれません。この蔵の外には時代劇に出てきそうな靴箱や蔵のカギもありましたよ。中川政七商店で実際に使われていたものですからまさしく本物。それを目の前で見られるのですから感激です。

 古くて貴重なものをよくぞ残してくれたと感心するばかりですが、全てが実際に使われてきたものだからこそ大事にされてきたともいえます。江戸、明治、大正、昭和、平成、令和という300余年もの間、商売を続けてきたということは、ち密さと大胆さ、人や道具の丁寧な扱いがあってこそかもと想像しました。

 さて、楽しみにしていた和菓子とお抹茶にうつりましょう。

 併設の和カフェ「茶論」にある広めの部屋に案内されました。木がふんだんに使われ、床の間や欄間があり、障子や大正ガラスがあるこの空間は心が落ち着きます。夕方からのガイドツアーだったので暗くなるにつれ電灯の明かりが風情を増し、さらによい雰囲気でした。その中でいただくお抹茶とお菓子。美味しくないわけがないでしょう。

 席は、狩野派・内藤其淵(ないとうきえん)氏が描いた屏風前でした。観光地などでは距離を置いて見るしかない屏風絵が目の前にあって、思わず「大丈夫?」「いいの?」とつぶやいたほど、とても贅沢です。この鹿の絵は写実的でとても愛らしく、平安時代からずっと神の使いとして大事にされている鹿が、この奈良の地でどれだけ長く親しまれ愛されてきたのかが伝わってきました。

 ほどなくして、お茶一式が運ばれてきましたよ。紫蘇と塩が入れられたあたたかい飲み物でまず喉を潤しました。美味しい! 少し大きめの大ぶりの茶碗には抹茶がたっぷり入れられています。説明を聞きながらお湯を注ぎ、茶せんを使ってお抹茶を点てます。多少経験があるとはいえ、自分で点てるのは久しぶりだったので緊張しました。が、静寂の中、シャカシャカと鳴る茶せんの音は風流を味わう気持ちをさらにかき立てました。味はもちろん、GOOOO~Dです。

 中川政七商店と同じ、ならまちにある樫舎製の和菓子も期待していた以上に美味しかったです! 目をつぶって「う~ん」と思わず声が出たほど。名残の、重陽のお菓子の意匠はかわいらしく、中の白あんは「これは栗?」と思うほど、ほくほくした豆が残されている白粒あんでした。

 綺麗な和菓子と自分で点てたお抹茶。日本人でも目と口と心が大喜びする体験ですし、ザ・日本を感じたい外国人観光客にもピッタリのツアーではないでしょうか。1時間程だったにも関わらず、もっと長い時間だったように感じられました。

 夕方始まり?と初めは意外に思っていましたが、終わってみれば、昼間に奈良を観光し、若干疲れた身体を休めると同時に奈良のよさをさらにおさらいできる、一日の終わりにふさわしいツアーだと思いました。おすすめです!

 さて、最初に書いた3つの言葉「筬(おさ)」「杼(ひ)」「砧(きぬた)」ですが、「筬」と「杼」は奈良晒を織り上げるときに使われる道具の名前です。「砧」は布を木や石の上に置き、つく(叩く)ときの道具。つくことで、つやとやわらかさが出るそうです。

 麻布の肌触りは最高です。しなやかさが感じられる強さもあります。奈良晒は晒されたことでさらに艶も増しています。好きな色を選び、のれんや座布団カバーをオーダーできるそうなので、そちらもご興味ある方は是非どうぞ。

AKANEMARU NEWS

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